ポプラの木の下で





 俺がアイツを見つけたのは、涼しくて気持ちのいい朝だった。





 その大きなポプラの木は、俺の気に入ってる場所で。



 普段は誰もいない、静かな場所だった。



 なのにその日は珍しく、先客が居て……







「何か用?」

俺の視線を感じてか、その女は振り返ってそう聞いてきた。

 長い栗色の髪の毛がやけに綺麗で……思わず見とれた。

「そこ、俺がいつも座ってる……」

「そっか。それは、ごめんね」

そう言って笑うその女の手にも、タバコが。

 何となく、何となくだけどその綺麗な髪の毛とタバコは、似合わないような気がして。



「女がタバコとか吸うなよ」

俺がそう言うと、女は驚いたように笑った。

「中学生に言われたくないなぁ。私、法律には引っかからない年だし」

クスクスと、透明感のある声で笑う女。

「吸っちゃいけないのは、君の方でしょ?」



「君じゃねぇ。隼人だ」

俺は木の幹にもたれかかりながら、タバコの煙を吐き出した。

「そっか、隼人か。私、



 。それが、あいつの名前だ。







 毎朝、そこで会うのが日課になっていた。

 何でもないような、くだらない会話をしながらも……俺は確実にの事が好きになっていた。



 俺よりも遥かに年上の女だけど、楽しそうに笑ってくれるのが嬉しくて。

 時々、悲しげに目を伏せるのが気になって。



「隼人」



 そう呼ぶと俺の、距離を少しずつでもいいから縮めたかったんだ。





 それが、黒曜中の骸の野郎のとこに乗り込んだときの事。







「なっ……なんで!?」

 10代目と戦っていたのは、骸と思われる男とだった。

 見間違える筈はねぇ!だ。

!!」

 俺が思い切り名前を呼ぶと、三人はぴたっと動きを止めた。

「獄寺くん!?この人の事、知ってるの?」

10代目はボロボロの体で、不思議そうにそう言う。

「知ってるも何も、は!!」

俺が言葉を続けようとした瞬間……はふと笑顔を浮かべた。

……?」  いつもと変わらない笑顔のまま、は俺に歩み寄ってきて。目の前で止まった。

「情報がね、必要だったのよ。ボンゴレ10代目の右腕……隼人のね」



 聞きたくない、そう思った。  

 の右腕に握られているナイフに、体が無意識に反応して。

 無数のボムをタバコの火に近づける。



「私は、骸の仲間だよ。騙してて、ごめんね」

の顔が、後悔の念に染まる。だから俺は、ボムを降ろした。

 の事を攻撃なんて、出来る筈……ないだろ。



「やっぱり子供ね」

 目の前のが居なくなった……と思ったら、俺は首のあたりに衝撃を感じて膝をついた。

 しまった!そう思ったけれど、既に体は言う事を利かない。

 俺はただ、目の前に立って俺を見下ろすを見上げる事しか出来なかった。



「甘いのよ。自分がどこの世界で生きてるのか、分かってない」

バカにするような、冷たい言葉に……似合わねぇ顔。

「な、泣きそうな顔……してんじゃねーよ」  は一度歯を食いしばって目を閉じてから、何かを決意するようにして目を開けた。

 そして、



「バイバイ、隼人」



 そう言って俺にとどめは刺さずに10代目の方に走って行った。

 10代目と骸の戦いに参戦する為に。

「チッ。甘いのは、どっちだよ……チクショ……」



 俺はただ、見ている事しか出来なかった。

 10代目もも傷ついて行く中、体の自由が利かない俺は、見ているしかなかった。



!!」



 倒れて行くを。

 血を流すを。



 俺は何も、出来なかった……





 戦いの終焉で。

 は、骸とともに連れて行かれた。

 腕を引かれ、体を引きずられて。



「隼人。……ありがと……」

 その先に待つ死を知りながらも、彼女は……笑っていた。

 その瞳から涙を流しながらも、確かに笑っていたんだ。



「畜生ーーーーっっ!!!」



 俺はそんな風には笑えねぇよ。

 どうすりゃいい?

 叫んでも叫んでも、涙が止まらない。





『隼人、ありがと……』



 の言葉が、俺の頭にこだまする。

 あの笑顔が、壊れたビデオテープみたいに何度も……何度も頭の中で浮かんでは消える。

 もう二度と会う事も、触れる事も出来ないその影に。

 何度も手を伸ばして、俺は……

……、お前が好きだった」

 言えなかった言葉を繰り返す。



 あの、ポプラの木の下で。









〜〜〜〜〜〜あとがき〜〜〜〜〜〜
初、獄寺夢ですv
何となくですが、ディーノよりは書き易かった!口調や仕草に癖があるからでしょうか?
しかしまた暗い話になってしまいました……次回投稿の際は、もう少し明るい話
を投稿したいなぁと思ってます。



この作品は「碧露草」様の夢小説投稿作品です。
「碧露草」様、ご投稿有難う御座いました。