1.視線







 バスケットボールが、磨き上げられた床を叩く音。
 バッシュがその床の表面とこすれて、響く小気味いい音。
 私は、その音が大好き。


先輩!」
私を見るなり駆け寄ってきてくれる可愛い後輩達に、両手に下げたペットボトル の清涼飲料水が入ったビニール袋を渡す。
「ありがとうございます!今日もよろしくお願いします」
その笑顔と体育会系のノリが心地よくて、笑顔が零れた。

 一昨年この並森中を卒業してから、私は並高へと進学した。
 高校に入っても、もちろんバスケを続けながら。週に一度くらいのペースで、 現在コーチ不在の並森中バスケ部の指導にやってきている。
 別々の高校に進学した、元チームメイト達と交互に。私の担当は、水曜日。


「じゃあ、着替えて来るから柔軟しといてね〜」

 そう声をかければ、気合いの入った元気な返事があちこちから聞こえて来る。
 自慢じゃないけど、私の後輩達はみんな素直で可愛い。



 高2にもなって未だに色恋沙汰の浮いた話の無い私を母は嘆くけど。
 私は今すごく楽しいし、勉強に部活に後輩達の指導にと毎日が充実している。

 彼氏が出来た事は無いし、それ程までに男の子を好きになった事も無い。

「……母さんがブツブツ言うのも無理ないか」

 呟きながら、ジャージに着替えた為に身軽になった体で何度か飛び跳ねてみる。
「よしっ!今日も絶好調!!」



 恋に溺れる自分なんて、想像もつかない。
 そーゆうの、苦手だし。

 本気で、そう思っていたのにな。



 視線に気づいたのは、ボールを脇に抱えて後輩達のシュート練習を見ていたときの事だった。
 何気なく振り向いた先には、体育館の入り口からこちらを睨んでいる男子生徒の姿。

「…………?」


 じっとこちらを睨みつけている男の子。

「何あの子……」
入り口の壁にもたれかかり、視線を一度も外す事無くこちらを見ている。



 色素の薄いグレーの髪の毛。
 整った顔立ち。
 斜に構えた態度。

 刺すような、その視線。


「何なのよ……」

 私の呟きに気がついたのか、後輩達が私の視線の先に目をやる。

「獄寺くんじゃない?どうしたんだろう」
「やっぱ、カッコいいよね〜!」
途端に上がった黄色い声に、獄寺くんと呼ばれた男の子は一瞬だけ眉を寄せて踵を返して去って行った。

 去り際にもう一度、私に睨みをきかせてから。


先輩、獄寺くんと知り合いなんですか!?」
部の中でも割とミーハーな子が、目をキラキラとさせながら駆け寄って来る。
「知らないよ。初めて見る顔だし……」
だから、睨まれる覚えなんて無い。
 私が彼に何をしたと言うんだろう?


 あーーーっ!何か腹立ってきた!!


「そうですよね。獄寺くんはイタリアから留学してきたばっかりなんです!獄寺隼人くん!格好良くてクールだから、すっごい人気あるんですよ!」
どうでもいいし。
 関係ないし。
 思い出しただけでムカムカする!

「ほらほら、練習再開するよ!もう一回レイアップからね〜!」
 必要以上に声を張り上げた。
 帰って来るのは、気持ちのいい元気な返事。

 わけの分かんない男の子の事なんて、気にするのはやめよう。
 私には関係のない事だ。

 そう思っていた。
 思ってたのにな。







〜あとがき〜

獄寺連載ですv
ずっと温めていたものを、書き始めました!
獄寺くんには、やっぱり年上ヒロイン!!って事で、高校生ヒロインと獄寺くんに恋愛をしてもらおうかなぁと。。。

マフィアとかは関係ない話になってしまいますが、最後までお付き合いいただければ幸いです☆

この作品は碧露草様の夢小説投稿作品です。
碧露草様、ご投稿有難う御座いました。

photo/Sky Ruins