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彼と会ったのは、ひどい雨の降る夜でした。わたしは24時間休まず営業している コンビニエンスストアに翌朝のパンを買いに行った帰り、急に降り出した通り雨 にうんざりしていました。近くの本屋の屋根で雨宿りをしていると、青色に近い 黒色の(真っ黒すぎて、蒼のように見えただけかもしれない)髪色をした、背の高 い黒曜第一中学校の制服をきた青年が大雨の中、焦ることも無くわたしと同じ本 屋に雨宿りにきました。彼は中学生にしてはひどく大人びていたので、高校生か それ以上にも見えました。濡れた前髪を拭って、男のひとにしては長い睫毛を伏 せたすがたは、それはもう、綺麗、としか言いようがなかったです。 彼はふとわたしの方を向くと、ひどく驚いたように言うのです。 「また会えましたね」と。 言い方はとても穏やかで、彼は物腰さえ穏やかで隙が一寸もなかったので、わた しはただうろたえて「どこかでお会いしましたか?」と素っ頓狂な返事をしてし まって、後悔しました。わたしがそう、可笑しな返事をしたあと、彼はまた綺麗 な睫毛を伏せて、すこし悲しそうな顔をしたのです。そして「僕と君は、前世で 会っていたのです」と今考えれば彼の方こそ素っ頓狂なことを言って、わたしは もちろん前世なんてあるのかさえ不思議に思っていたので、やはり狼狽して彼の 言葉を頭の中で何度反芻しても理解には乏しかったのです。 でもその彼の姿がひどく真剣で、綺麗な、でもすこし悲しい瞳のままだったので 、わたしは彼の言葉を信じることにして、「そう、だったんですか」と簡単に信 じてまた彼をびっくりさせてしまい、またいくらか彼が微笑んだのでわたしはと てもホッとしました。 彼の名は、六道骸と言って、六つの冥界を廻ったのだといいます。前世でわたし と彼は、恋人同士ででも彼は不死身というか、まあ六つも冥界を廻ったのだし、 強靭に生きる術を身に付けていて、わたしよりずっと長生きをしたのだといいま す。わたしは彼よりいくつも早く死んでしまい、彼の魂は次の冥界を目指しなが ら、わたしの魂を探していたらしいのです。 「俄かには信じがたい話だとは思いますが、これは全て真実なので、きみが僕を 怪しいと思うかもしれないですが僕としては、やっと見つけた、というきもちで す」と、恭しく言って、わたしは信じがたい話を信じなければならなくなったの です。そして言う、彼はわたしを見つけることができて、こころから幸福だと。 それからわたしと彼は恋人同士になりました。わたしは彼を骸、と呼んで、彼は わたしをミンクと呼んだのです。もちろんわたしにとって彼は、ひとりめの恋人 ではなかったのですが、それでもまるで初恋のような感覚でした。まるでいけな いことをしているような感覚。晴れの日にはふたりで買い物に行ったり、ふたり 並んで昼寝をしたりしました。買い物に行ってもわたしは彼と手を繋ぐことはな かったし、骸もそんなことはしようとしませんでした。雨の日はふたり家のなか でゆっくりしたり、ふたりでお互いの好物を作りあったりしました。その幾日の なかで彼はわたしに疾しいことは決してしようとしませんでした。一般的に恋人 らしいことといえば、キスをしたことだけでしょう。それも淡白なもので、可愛 らしい物に口付けるだけもののように思えました。 「僕は六道輪廻を廻るなかで、いろいろな人生を歩んできたのだけれど、そのど れもの人生の端々をきみと歩みたかった、と切実に思う。」 「わたしもきっと、今まで骸と出会うために生きてきたんじゃないかと思う、の 。わたし、六道輪廻、とか言われてもよく分からないのだけれど、骸といくつも の人生を歩めるならそれほど幸せなことってないわ」 そして約束する、わたしと骸は後世でもきっとふたり出会うこと。 キスはなんどもするのに、街中で手を握ることはしませんでした。料理をふたり し合って笑いあうのに、厭らしいことは一度としませんでした。ねえもしかして きっと、わたし前世では自害したんじゃないかと想像するのです。骸、もしかし てきっと、わたしの前からいなくなるんじゃないのかしら、といつも不安を感じ てしまいます。ねえだって、口付けしかしないのも、手を繋がないでいつでもわ たしを自由にするのも、全てわたしを骸に依存させないために仕組んでいるので はないの?と疑ってしまいます。 「骸、手を繋ごう」 わたしは言う。手を繋ごう、わたしをあなたに依存させてください。わたし、ど んなことがこの身に降り注いでも我慢する。わたしはきっと、前世のわたしより ずっと丈夫に生まれたはず。世界は悲鳴を上げない。わたしもきっと、悲劇を繰 り返さないわ。だっていまわたし、誰よりあなたを愛していると、心より感じる 。理論をぶつけるまえに身体が動いてしまう。 「そうですね」 そういってわたしの右手を取る彼の細くて長い指が、戸惑い気味に動く。困った ように笑いながらわたしと手を握る。隔たりよ埋まれ。わたしの部屋の中で、ふ たりで手を繋ぐ。初めて握る左手は、暖かい部屋の中なのになぜだか冷たい。キ スするよりずっと緊張する。なのにまた手をつないだまま、わたしたちはかなし いキスをする。骸の綺麗な顔が近づいてくるのでわたしはどうしても緊張して、 でもしっかり目を瞑って、唇に柔らかな感触が残るのを感じた。 悲劇が輪廻する わたしときみの、魔法が溶ける。 |
骸さん大好きなので書いておこう!と思いましてまた微妙なのを書かせていただきました。 よくわかりませんねーこのはなし。書いた私がわからないんだから読んでくだ さった方もよくわからないんじゃないかと思いますすみません; この作品は水嶋*唯様の夢小説投稿作品です。 水嶋*唯様、ご投稿有難う御座いました。 photo/ |