100億の星が私を見下ろす

野良犬と風と叫び声

『私』の記憶は、暗闇に映る血の影だ









道化師の失敗 05









ちゃん、今日は天気がいいから、外で散歩でもしようか」

「はい」

20代前半と思われる若い女の看護士が花瓶に花を添えながら

アタシを見た。

「…何か?」

「ううん…刑事の、佐久間さん、だっけ?その人が

ちゃんのことをしきりにとても冷静な子だって仰ってたから…。確かに、

落ち着いてるなーって」

「そんな…。でも、アタシよく妹の面倒とか見てましたから

そんな風に見えるのかも」

「へェー、偉いねちゃん」

女は感心したように頷きながら車イスを用意する。

その車イスに座って、あとは看護士のされるがまま。







昼下がりの暖かい日差しの中で、看護士と一緒に街を散歩した。

公園の広場を通り過ぎ、ポプラ並木の遊歩道を歩く。

すると、一軒の古本屋の前に出た。

ちゃん、ちょっとこの本屋に寄ってみる?」

「お願いします」

扉を開けると、チリンチリン、と軽い音がした。

あまり広くない店内にはびっしりと本が積まれている。

「いらっしゃい」

やる気のなさそうな初老の男性が1人、新聞を広げて店の奥に座っていた。その男性はじっと私を見て

「本、好きなのかい?」

「あ、えーっと…はい、好きです」

「ほう。どんな本が好きなんだい?」

「あ…私は、ミステリーとか洋書が…好きです」

「あーその類は…この裏の棚にあるから、好きなだけ持っていきなさい」

「え…!?でも、そんなわけには…ちゃんと、買える範囲で…」

「いやいや、この店は見ての通り、滅多に客が来ない。本たちも

本好きな人の手にある方が喜ぶだろう」

「あ、有難う御座います」

男性は頷いて、また新聞に目を戻した。













カラスが大きな夕日に向かって飛んでいる。

今日はあちこち散歩した。膝の上に本を3冊置き、病院へと帰る。

「…ちゃん、あの本屋で、緊張してたの?」

「何故?」

「何ていうか…雰囲気が変わったな、と思って」

「ああ…。久しぶりに外で人と会話したから、何だか慣れなくて」

「そーなんだ、そーだよねェ。外に出たの2週間ぶりだもんね」

「ええ」





病室について、アタシはベッドに移動する。

「じゃあ、今日は疲れただろうから、ゆっくり休んでね」

「はい」

女は出て行った。

窓の外を見ると、また闇が降りて来ようとしている。

アタシの体に、静かに重く闇がのしかかる。



















完全な闇の中で、鋭い咆哮と誰かの叫び声が聞こえた。



目を開けて、しばらく辺りを見回す。



三日月のぼんやりとした薄明かりの下で点々と

























血が光っていた。









ホント私はこういうの好きだな。

次は一体誰の記憶でしょうか。


この作品は天狼様の夢小説投稿作品です。
天狼様、ご投稿有難う御座いました。

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