近くって、遠い









分りきっていたことなんだけどな。

どうしても、俺は信じられねぇよ…。

やっぱり、今までの覚悟なんて、甘いモンだったんだな。



巡り巡って、また朝が来た。

ああ、昨日、アイツの看病の最中に寝ちまったのか。

起こさねぇと、アイツ。



……起きろ」

ゆさゆさと、の体を揺さる。

……オイコラ、起きろ。おい、

の瞳は、閉じたままだ。

悪い予感が、する。

「――――ッ!!」





俺とは、統学院からの付き合いだ。

はじめは、ただ席が隣だっただけなんだが。

「檜佐木くん…っていうんだ? あたし、。よろしくね」

そのときの笑顔は、とても可愛らしくて。

俺はガラにもなく、顔を赤くしたんだ。

「……檜佐木くんじゃなくて、修兵、でいい」

「そう。わかった、修兵」

気付いたら、俺はに“修兵”と呼ばせていて。

気付いたら、俺も“”と呼んでいた。



ちょっとずつ、ちょっとずつ、俺はのことを知っていった。

のいいところも、悪いところも、全部。

そして知ってしまった――の、病気について。



は、かなりの難病を持っている。

だけどアイツは、ずっと隠してきた。

俺にも、周りの奴らにも、哀しさなんて欠片も見せず、

俺と共に護廷へ入隊した。



が俺に病気を告げたのは、丁度一年前だ。

「あたし、もうだめかもしれない」

という言葉と、バツの悪そうな笑顔と共に。



「何が“だめ”なんだよ。“だめ”じゃねぇよ。

は生きるべき人なんだよ!!」

「修兵…でも、あたし、本当にもうだめなの。

生きられないの。何時死んでも、可笑しくないの」

その笑顔は、とても哀しいものだった。

「ヘラヘラ笑ってんじゃねぇ!! オマエ、何――何で、

笑っていられるんだよ!? 悲しくねぇのかよ!?」

から笑顔が消えた。

「悲しいよ。悲しいに決まっているよ」

だったら何で笑って…「でも、笑えないことはもっと悲しいの」

「…………」 「笑っていないと、壊れちゃいそうなの。すぐ泣きそうになっちゃう。

でも、泣いたら皆、心配するでしょ? みんなには心配かけたくないの」

その瞳は、悲色しか映していなかった。

俺なんて、どこにも居なかった。



「もし――もし、修兵がよければ、一緒に生きて? 

死ぬまであと少しだけど、あたしの我侭だけど……一緒に生きて?」



俺は誓った。が死ぬまで、いや、死んでからも、

ずっと一緒に生きると。

一緒に居ると誓った――はずなのに。



「起きろ!! !!」

わかっていたはずなのに。

「頼む、起きてくれ!! 目を…覚ましてくれ」

嫌だ。逝くな、

死ぬな…………ッ!!



「修…兵…?」

「…?」

「どうしたの…泣いているじゃん」

その時やっと、頬を伝う涙に気付いた。

「……泣かないでよ、修兵。あたし、辛くなっちゃう…」

「ゴメン…」

「謝らないで…もっと辛いから」

「…ああ」



「ねぇ、修兵。忘れないで欲しい言葉があるの。

でも、引きずらないで欲しい言葉でもあるの」

「引きずらねぇよ。忘れもしねぇ。約束する。その言葉、何だよ?」

「“だいすき”って言葉。初めて話した時から、

ずっとだいすきだったの」

「俺もだ。だいすきだった、ずっと。そして、これからも」

そっと、触れるだけのキス。

柔らかくて、切なくて…。だけど、愛に満ちたキス。



「ありがとう――修兵」



突然、が冷えていくのが分った。

もう、お別れなのか。

「だいすきだからこそ、死ぬな! 死なないでくれ、!!」

別れたくない。このまま二人で生きてぇよ…。



ずっと、修兵のこと好きだったの。

でも、「好き」って言わないままだったら、

きっと貴方は気付かなかったでしょう?

どうしても、伝えておきたかったの。

忘れないで、あたしのこと。

幸せになって、他の人と。

矛盾しているけど――それがあたしの気持ちだから。



「今まで、ありがとう、修……兵……ゴメンね。

だいすきだよ…………」



貴方は、ちゃんと生きて。

あたしの倍、生きてよね。



ッ!!」

の瞳は、閉じられて。心臓の鼓動は、もう、ない。

アイツが逝ったことを、確信した。



、俺、ずっとオマエのことがだいすきだ。

でもよ、俺、まだ信じられねぇよ。

こんな、こんな近くにが居るのに、

すごく遠くへ行っちまったなんて。

俺はまだ、信じられねぇよ。





近くって、遠い。









長い……。私って長い作品しかかけないんでしょうか?
しかも暗〜〜い死ネタ。うぅむ……もっと短く、シリアス夢を書けるように特訓
します!!(甘夢の特訓しろよっていうのはナシで 笑)

読んでくださり、ありがとうございました。

この作品は蒼空の雫様の夢小説投稿作品です。
蒼空の雫様、ご投稿有難う御座いました。

photo/螺旋胎動