彼は、行ってしまった……。もう、戻らない。 想いを乗せた金魚鉢 彼は、行ってしまった。藍染隊長と一緒に。 彼は、行ってしまった。私に、この金魚鉢を残して。 騙されていた、とは不思議と思わなかった。 彼が吐く、意味の無い嘘には慣れていたから。 「愛してるって」 「嘘つき」 「ホンマやって。せやから、に会いに来るんやない」 「ふーん」 意味の無い会話が、私の頭をフラッシュバックする。 「現世の、花火大会に行きたい」 そう言ったのは、私。 「ほな、行こか」 そう言っていつもの笑みを浮かべたのは、ギン。 「来週あたり、連れてったるわ」 「本当?」 「ホンマやって」 やっぱり、ギンは嘘つきで。 だって、そんな話をしたのはつい先週の事。 「金魚すくい、したいな」 あの赤い色が、好きだから。 あの小さな魚が、可愛くて好きだから。 私がそう言ったら、ギンはその次の日に私の私室に来てこれを差し出した。 「金魚鉢?」 「せや。金魚すくい、するんやろ?」 だから私は、本当なのかも知れないって思ったの。 本当に、花火大会に連れて行ってくれるのかも知れないって。 でも……彼は行ってしまった。 ふと金魚鉢を持ち上げてみて、底に何かが張り付いているのに気がついた。 「手紙?」 それは、メモ帳くらいの大きさの紙。それは…… 「ギンの字。……相変わらず、汚い字」 それを黙読して、目頭が熱くなってきたのを感じた。 視界が、どんどんぼやけていく。 「バカ……ギンの、バカ」 指先に力がはいらなくなって、慌てて金魚鉢を机に戻そうとしたけど……遅くて。 耳に刺さるような音と共に、金魚鉢は……砕けた。 「痛っ」 飛び散ったその欠片が頬をかすめて、思わず声をあげるけど。 本当は、痛いのは頬よりも胸だった。 透明な欠片が部屋中に散らばってるから、今のぼやけた視界じゃ私は一歩も動けなくて。 胸の痛みにどんどん涙が溢れて来るのに、膝をついて泣く事も出来なくて。 「ギンのバカ!」 そうやってどこにも居ないギンに毒づく事でしか、自分を保つ事が出来なかった。 「バカ……ギンの、バカ」 もう、届かない事は知ってるけど。 今くらい、強がらせてよね。 明日からちゃんと、笑ってみせるから。ギンの事なんか、忘れるから。 『へ。僕が居なくなる前にこれに気づいたら、も一緒に連れてくわ。 これは、僕の賭けや。愛してるなら、気づいてくれるよな?』 はらりと落ちた、一枚の紙切れ。 「気づいたって、行くか!バカ」 精一杯の、強がり。 だけど本心は……『気づけなくて、ごめん。 愛してる』 〜〜〜〜〜〜あとがき〜〜〜〜〜〜 二度目の投稿です♪ 前回に続き市丸夢になりました。 どうしても方向性がシリアス方面に……!ほのぼのを書けるようになりたいものです。 読んで頂けた方が居ましたらば、この場でお礼を。ありがとうございます♪ この作品は「碧露草」様の夢小説投稿作品です。 「碧露草」様、ご投稿有難う御座いました。 photo/ひまわりの小部屋 |