eazy come,eazy go 今までにして来た恋の中で、一番特別なものはどれか? そんな質問をされたとしたらキミは何て答えるのかな? それは、僕との恋だと……答えてくれるだろうか? もう、随分昔の事のような気がするよ。 と寄り添って過ごした、あの純白の季節。 でも、昨日の事のように思い出せる。キミの笑顔も、言葉も、涙も……。 あの時は17歳だったから、今はもうおばあちゃんかも知れないね。 きっと可愛いおばあちゃんになっているだろうな。はとても美しかった。 僕の隣にいる事が相応しいと思えるほどに、美しかったから。 もう会う事が出来ないだろうキミを、今でもこうして思い続けているよ。 あれから、キミより僕に相応しい人になんか出会う事は出来なかった。 どんなに年をとっていてもいい。 どんなに醜い姿になっていようと、構わない。 それでも、キミに会いたいよ。 あれは、僕がまだ入隊して間もない頃。 誰も僕の存在なんか気にも留めていなかった頃の話さ。 僕は、現世への任務を言い渡された。 「しょぼい町……」 そこは本当に何もない、小さな田舎町だった。緑だけはやたらと多くて、何もない、静かな町。 でも、僕は見つけたんだ。 何もないこの町で、キミを見つけた。 「あなた、幽霊なの?」 ふと背中から聞こえた声に、立ち止まって振り返る。 「最近よくこの辺をウロウロしてるよね?幽霊なの?」 死神であるこの僕に、そうやって声をかけたのがだった。 僕らの仲が親密になるのも、互いに想いを寄せ始めるのにも、たいした時間はかからなかった。 は僕の体に触れるほどの霊力を持っていたし、そのせいで虚に狙われる事も多かった。 だから僕は、普段からの傍にいる事が出来たんだ。 「愛してるよ、」 を僕の物にするのだって、簡単な事だった。 欲しくて欲しくてたまらなかったを、この腕で抱く事が出来る。 そんな幸せは他には無かったと思う。 「弓親、大好き」 僕らはそんな風に、一日の大半を甘い時間の中で過ごした。 僕の仕事はと言えば、この辺の虚は全部の元へやって来るのが分かっていたから、 僕はの側を片時も離れない。それで良かった。 「見て、弓親。雪……」 純白の羽のようなそれは、の掌に落ちては溶けて、そこに小さな水たまりを作っていた。 何もない町に降る、真っ白な雪。 そこに佇む。 「……」 その光景があまりにも美しくて、儚くて……僕達の靴が雪に埋まってしまうまで、僕はを抱きしめていた。 「弓親、私風邪引いちゃうな」 はそう言って困ったように笑ったけど。 「もしそうなったら、僕がの体の芯まで温めてあげるよ」 僕はそう言ってを部屋の中に入れると、夢中でに口づけた。 何度も何度も抱き合って、何度も何度も口づけを交わす。この体が僕の物なのか、 の者なのか分からなくなるまで。溶け合ってしまうまで。 まるで、幸福な夢のような、そんな時間だった。 そして終わりは簡単に、いとも簡単にやってきた。 「帰還命令……」 は一瞬だけ悲しげに顔を歪ませたけど。 「そう……だよね。弓親は、死神なんだもんね」 一生懸命に笑おうとしているのが分かった。は、悲しみの涙を堪えて笑おうとしていた。 その瞳が、美しくて。あまりにも美しすぎて。 いざとなったら連れて行ってしまおうと思っていた僕も、それが出来なかった。出来なくなった。 最後の夜、僕たちは互いの肌を、唇を、声を、温もりを忘れないようにと、 何度も抱き合った。深く、深く……一生分の愛を満たすように。 「さようなら、弓親。忘れないから……愛してる」 キミの最後の口づけを、その時に感じた涙の味を、僕はきっと死ぬまで忘れる事は出来ないと思う。 あまりにも美しい別れ。 あまりにも美しすぎる涙。 僕は、一人でここへ戻ってきた。 キミの心を手に入れるのは、簡単だった。キミに心を奪われるのも、簡単だった。 別れもまた、簡単だった。 Eazy come,eazy go. 得やすい物は、失いやすい。 まったく、うまい事を言う人も居るもんだよね。まったくその通りだった。 だけど、僕の恋人は今でも、キミ1人だよ。 僕の人生の中でたった一人、僕の恋はたったひとつ。キミだけだ。 「愛してるよ、。今でもキミを……」 空に向かって、呟く。 忘れない。 キミを愛し続けるよ。 今も、そしてこれからも。 |
初、弓親夢です♪ 最近初物ばかり書いている、飽きっぽくミーハーな碧露草です; 弓親の夢を書きたくて、しかしこれまでなかなか構想が浮かばなかったんです。 で、英語のことわざ。『eazy come,eazy go』。これを見た時に、あ、と思いつい て何となく考えて何となく出来上がったと言う、惰性の感を拭えない作品です; こんな作品でも最後まで読んで下さった方、ありがとうございますv この作品は碧露草様の夢小説投稿作品です。 碧露草様、ご投稿有難う御座いました。 photo/NOION |