頑固者同士の逢魔が時









「ついて来ないでよ」

 私の言葉に、隠形している奴の口から舌打ちが漏れたのが聞こえた。

「隠形してたって分かるんだからね!ついて来ないでってば、青龍」

 背後から、先程よりも大きな舌打ちが聞こえた。

 立ち止まって背後を振り返って睨むと、同じように私を見下ろして睨みつけている青龍。

いつの間に顕現したのかは知らないけど、相変わらずの仏頂面が憎たらしい。





「買い物に行って帰って来るだけだし。一人で平気だってば。青龍の力なんか全然必要ないの!」

「俺だって好きで付いて来てる訳じゃない」



 分かってる。

 どうせ清明さん……もとい、おじいちゃんが命じたんだって事くらい。



「青龍だって嫌なんだったら断ればいいじゃない。昌浩の護衛は断るんでしょう?」

「お前には関係ない。六合からも頼まれている。逢魔が時の一人歩きは危険だからと」



 私のこめかみにも、青龍のこめかみにも、青筋が立っているのが分かる。



 大体、何故青龍がついて来るのか。

 いつもは六合がどこに行くにも付いて来てくれるのだけど、

今は別の仕事でどこかへ行っている。それは、分かってる。



 でも、青龍じゃなくてもいいじゃないか。



 青龍は、もっくんをいじめる。

 昌浩の事も、感じの悪い目で見る。



 私に何かをした訳じゃないけど、青龍が絡んだ時にもっくんが悲しそうな顔をするから、青龍は嫌い。



 顔を合わせれば憎まれ口の言い合いになるし、お互いにイライラして仕方ない。

それくらいおじいちゃんだって分かってるはずなのに。

 いや、分かってるから。か。



「あの化け狸!」

 そう言って踵を返して歩き出した時。



「あ……」



 突然表れた、異形の物。

 それは、大きく口を開けて私めがけて突進して来る。



!!」

青龍のそんな叫び声と。



「禁……!!」

印を結んだ私の声。それは、ほぼ同時。





 なまじ霊力が高いと、異形の物の標的になるからと。教わった陰陽術。

 これがかなり役に立つ。



 一刀両断とは、まさにこの事。

 目の前の異形は断末魔の叫び声をあげて消え失せた。





 頭の上あたりで、ホッと息をつく音。

「何?心配した?」

見上げれば、ハッとした様子で私を睨む青龍。

「誰が」

短い言葉は、冷たく尖っている。

 でも、青龍のそれは自分を取り繕う為の物だと分かっている。

だから、冷たい瞳で私を睨む青龍がおかしかった。



「何がおかしい」

「いや?別に。そう言えば、私の名前初めて呼んだでしょ。かなり慌ててたみたいだけど」

からかうように言ってみれば、案の定鋭い視線だけが返って来た。



「私の名前知ってたんだね。知らないのかと思ってたよ。いつもいつも『お前』

『お前』ってさ。全く。六合はちゃんといつも『』って呼んでくれるのに」



 突然、いかにも不機嫌ですってオーラが漂って来た。



「そんなに六合が好きなら、清明に言って片時も離れないようにしてもらえ」

「は?」



 何を言い出すのかと思えば、そんな事。



「何言ってんの?青龍」

「そんなに六合がいいなら、六合に護衛に専念してもらえと言っている」



 肌をさすような、冷たい神気。



「護衛はいらないって言ってるじゃん。見たでしょ?

とんでもなく強いのでも出て来なきゃ、1人でも平気なの」

「人間風情が、生意気なことを言うな」



 ああ、もう!

 だから嫌なんだよ、青龍は。人の事見下して、冷たい事しか口に出来ないんだから。



「青龍には私がどう思ってようと関係ないじゃん!私が死んだって、

妖に喰われたって、関係ないでしょ?」

「……ああ。関係ない、が」

急に青龍に腕を引かれた。と思ったら、私は彼の胸に顔を押し付けられていた。

その仕草があまりにも乱暴なので、思いっきり鼻をぶつける。



「痛い!何すんの!?」

私がそう言ったのと、この世の物とは思えない何かの叫び声が響いたのはほぼ同時だった。



「……?」



 振り返ってみると、そこに居たのはまさしく異形の物だった。

 青龍は雑作も無くそれを払って消し去る。



 しまった、あまりに腹が立って気配に全く気がつかなかった。



が死のうと喰われようと関係ないが、俺が清明にどやされる」



 勝ち誇ったように私を見下ろして言う青龍。

「うっ……」 言い返してやりたいが、今しがた助けられたばかりなので何も言い返せない。



「分かったら大人しく家路につくんだな」

これでもかって冷たい物言い。



 悔しくて掴まれていた手首を払って青龍に背を向けた。

「行くぞ、

誰の声??って思うような、青龍の声。何より、普通に私の名前を呼んだ。

 慌てて振り返ると、青龍はもう既に隠形して歩き出していた。



「待ってよ!青龍!!」



 微かに見える後ろ姿を追いかけながら、名前を呼ぶ。

 立ち止まって振り返ったその影が、一瞬笑ったように見えたのは……きっと気のせいだろう。



 だって、あの鉄仮面が笑うなんて有り得ない。



 有り得ない。……よね?





 まあ、今日は不覚にも助けられてしまったのだから。

 大人しく護衛されてあげようかな。



 うん。









〜あとがき〜
少年陰陽師夢、第二弾。
六合の次は青龍。うーん、飽きっぽい癖が出て来たかも。
いろいろ書き散らかしてすみません;

読んでいただいて、ありがとうございました!


この作品は碧露草様の夢小説投稿作品です。
碧露草様、ご投稿有難う御座いました。

photo/Sky Ruins