幾千の星に抱かれて 縁側から空を見上げると、沢山の星が瞬いている。 その数は、私がこれまで暮らしていた21世紀の星の数の何倍も多くあるように思える。 1200年程の時が流れて行く間に、いくつもの星が消滅してしまったのだろうか。 いや、違う。 この時代のこの町には、闇がある。 完全な闇なんか無かった21世紀には、見える星が少なかったんだ。 ここには夜になると闇が訪れる。だから、こんなにも星の明かりが眩しく感じられるんだ。 「寒いな……」 呟くと、肩に温かい物がふわりとかかった。 「寒いなら中に入れ」 抑揚の無い声に振り返ると、いつの間にか顕現していた六合が立っている。 私の肩には袿がかかっていた。 「ありがとう、六合」 再び空を見上げると、先程と変わらない星達がきらめいている。 「どうかしたのか?」 六合はそう言いながら珍しく、私の隣に座り込んだ。柱に背をもたれて片膝を立て、こちらを見る格好だ。 「星の位置を覚えて、星を読めるようになれって。清明さん……おじいちゃんに そう言われたんだけどね。私には無理だと思うんだよね。この時代に来るまで、 星空を見上げるなんて事して来なかったし」 六合は、ただ黙って話を聞いてくれた。 「私が暮らしていた時代とこの時代じゃ、何から何まで違いすぎるんだよ」 弱音を吐いたのは、珍しく六合が隣に座ってくれているから。その事が私にとって、 とても温かい優しさに思えてしまったから。 「帰りたいのか?」 不意に、六合が口を開いた。 その真直ぐな言葉と、多分投げ掛けられている真直ぐな視線。それに私は答える事が出来ない。 そんな簡単に口に出来るような、単純な気持ちではなかった。 「は、元居た場所に帰りたいのか?」 再び問われた言葉。 「分からない。……どうしたいんだろうね、私」 沈黙。 戻りたい。 戻りたくない。 そんな簡単な言葉じゃ、括れない事ばかりだった。 情けないな、私。 そう思って俯いていた顔を、慌てて空へと向けた。 それは、不意に目頭が熱くなって、俯いていたら泣いてしまいそうだったから。 泣いちゃいけない。そう思ったから。 「ここに居ればいい」 すぐ近くから聞こえた、六合の声。 頭の上に、温かい重みを感じた。六合の掌だ。 「ここに居ればいい。俺は、ここに居る」 六合は、横からそっと抱え込むようにして優しく抱きしめてくれた。 「が辛いと思うなら、言えばいい。寂しいと思うなら、望めばいい。 俺は清明の式神だが、今はの傍に居て守る事が任だ」 いつになく饒舌な六合。 六合がこんなにも言葉を連ねるのは、初めて見たかも知れない。 「どうせ俺はいつもお前の傍にいる。何でも俺に言えばいい。が望めばいつでも顕現しよう」 抑揚の無い話し方。 崩れる事の無い表情。 でも、一生懸命励ましてくれているのだと言う事が分かる。 「ありがとう。……ありがとう、六合」 六合が纏っている長布にしがみついて、それを言うだけで私は精一杯だった。 六合の腕の中は、温かい。 温かくて、優しくて、久しぶりに心の底から安心した。 「?」 名前を呼ぶ声が聞こえたけれど、安心感から来る眠気に負けてしまう。 そう言えば、ここに来てからずっと熟睡が出来ないでいたんだった。 私はそのまま星空の下で、六合の腕に抱かれたまま眠りに落ちてしまった。 ごめん、六合。 ここで私が寝ちゃったら困る事は分かってるんだけど。 もう、指一本も動かす事は無理みたい。 ありがとう、六合。 あなたのお陰で明日起きたら笑う事が出来そうだよ。 星を読めるようになれだなんて無理難題も、頑張ってみようって気になって来た。 六合のお陰だね。 頑張ってみる。頑張るよ、私。 ありがとう、六合。 |
初、少年陰陽師夢☆ 読んでいて分かる方も居るかもしれませんが、現代からトリップしたヒロインです。 12神将と人間との夢は、どうしたら素敵になるんでしょう?うーん。 まだ恋まで持って行けません; 未熟者です;; この作品は碧露草様の夢小説投稿作品です。 碧露草様、ご投稿有難う御座いました。 photo/M+J |