3cm 私の手。 彼の頬。 その距離、あと僅か……3cm。 「痛えっ!!」 その声の大きさに、ビクッと体が反応する。 「す、すみません!!」 とっさに彼から離れて謝ると、彼……一角さんは驚いた顔をして笑った。 「あ、いや。俺こそすまねえ。脅かすつもりは無かったんだ」 一角さんは、怪我をするとここへやって来る。 この救護室は、4番隊の下っ端がローテーションで看ているのだけど。 どんな偶然か、私がここにいるときは必ずと言っていいほど一角さんがやって来る。 その体や顔に、擦り傷や切り傷をいくつもつけて。 「また、少ししみますけど……我慢して下さいね?」 「お、おう」 私は脱脂綿に消毒液を浸したものを、ピンセットで持ち上げながら言う。 けれど、いつもの事ながら一角さんは私の目を見る事が無かった。私は下っ端 だし4番隊だから仕方ないのかも知れないけれど、一角さんは私の目を見てくれる事がほとんどない。 「あまり無茶ばかりしてると、体が持ちませんよ?一応お薬は付けておきましたけど、 少しは安静が必要です」 「お、おう」 そんな会話をしていても、こちらを見てくれないので本当に分かっているのかどうか、疑わしい所だ。 そんなに、戦いたいのだろうか? そんなに、刀を握る事が好きなのだろうか? 私には、理解が出来なかった。 ただ、いつも去り際に机の家に置いて行ってくれる一輪の花。 「あ。今日もお花……。いい香り」 今日のお花は、黄色の花びらが綺麗な、香りのいい花だった。 何も言わずに置いて行くのだけれど、私はこれを一角さんの感謝の印だと勝手に解釈している。 だって、何も言わずに置いて行くのに尋ねるのはどうだろう?と思ったりして。 あまり口を開かず、こちらを見ようともしない一角さんだけれど。 私はいつからか、彼が来るがを楽しみになっていた。 相変わらずその傷は痛々しかったけれど、一輪の花からその優しさが伝わって来るような気がしているから。 毎回一角さんが来るたびに増えて行く花達は、こっそりドライフラワーにしてとってある。 私の秘密の、宝物。 ある日の午後。 私はいつものように救護室で卯ノ花隊長に借りた医学書を読みふけっていた。 「んーっ、頭がパンパンだ!」 詰め込みすぎた知識に、頭が破裂しそう。そう思って大きく伸びをした時だった。 ーーガラッーー 突然、勢いよく背後の扉が開いた。 「……っ!?」 驚いて後ろを振り返ると、そこには鬼のような形相をした一角さんが立っていた。 「ど、どうしたんですか?一角さん??」 パッと見、どこにも傷らしきものは無い。 だけど、息が上がり顔が真っ赤になっていた。 「……熱でもあるんですか?」 その異様な様子に思い至る所はそれしか無かった。 だから慌てて立ち上がって駆け寄り、一角さんの額に手を当てようと手を伸ばした。 「!!」 突然、部屋中に響くような声で一角さんが私の名前を呼んだ。 私はその声に驚いて、伸ばしかけていた手を引いた。あまりの驚きに、体が硬直したのが分かる。 そして、思った。 名前を呼ばれたのは、これが初めてだと……。 「一角さん……?」 恐る恐る、呼んでみる。 すると、いきなり両肩をその大きな手でがっしりと掴まれた。 「っ!?」 驚きとその力の強さに、再び体が硬直する。 目を見開いて一角さんの顔を見上げれば、なんと、目が合っている。 一角さんが私の目を真直ぐに見ていた。 「!俺はお前の事が、ずっと、す、す、す、す……」 一角さんが、口を『す』の形にしたまま固まってしまった。一体どうしたと言うのだろう? よっぽど具合が悪いのだろうか? そう思って、再びその額に腕を伸ばした。 一瞬だけ触れた感覚のあと。 「っだああっ!!」 過敏に反応する一角さん。でも、触れた体温は確かに熱かった。 尋常じゃ無い熱があるようだ。これは大変だと思って、声を上げる。 「一角さん、熱が!」 すると、私の声よりも数倍大きな声で、私の両肩をがっしり掴んだまま一角さんは言った。 「!!お前が好きだ!!!」 耳が痛いくらいに、大きな声だった。靜霊邸内全部に聞こえてしまうような声。 「お、俺と付き合ってくれ!!!!」 あまりに大きな声だったので、キーンと耳鳴りがした。 でも同時に、熱があるわけではなかったと言う事が分かって心底安心した。 「一角さん……良かった〜!熱があるのかと、何か病気なんじゃないかと思って ……でも、良かった。良かった……」 安心したら、急に体の力が抜けて。私は床にへたり込んでしまいそうになった。 「!大丈夫か!?」 でも、一角さんは私の体を支えてくれる。 その大きな手に、優しさに、自然に笑顔が零れる。 「一角さん。私も、一角さんの事が好きです」 きっと今、私変な顔してる。安心して、力が抜けきって、おかしい顔。 でも、それでもいいような気がした。伝わればいいような気がした。 「彼女に、して下さい」 私が笑えば、それまで目を見開いていた一角さんも笑う。とても優しい笑顔だった。 一角さんは力一杯私を抱きしめて、それから少し腕の力を緩めて私の目を見た。 「……」 甘い、甘い声。 その声に、瞳に、魅入られるようにして私は目を閉じる。 私の唇。 一角さんの唇。 その距離、僅か3cm。 ところが。 「おい、押すなって」 「見えないっす!俺も見たいです〜!」 そんなひそひそとした声と一緒に、引き戸が一枚倒れ込んで来た。 「「「うわああ!!」」」 引き戸と一緒に部屋の中に倒れ込んで来たのは、一角さんと同じ隊の面々だった。 「お前ら……」 一角さんは、私を背中に庇うようにしながらそう言って、ワナワナと肩を震わせていた。 「いや、一角さん。これはですね……」 「まあまあ一角、落ち着きなよ。僕の助言のお陰でめでたくちゃんを射止められたんじゃない」 一番前で倒れ込んでいる隊員の方のあとに、弓親さんがそう言って一角さんの前に出た。 「毎回一輪の花を置いて行く。美しいと思っただろう?ちゃん」 そして1人自分の世界の中で陶酔を始める弓親さんに、一角さんが殴り掛かった。 「ふざけんじゃねー!!お前らせっかくいいとこだったのに、邪魔しやがって!!」 それからは、もう大変で。 皆が暴れ回るから、この救護室の中は滅茶苦茶で。 その上、大乱闘になったものだから、結局皆さん怪我だらけになって。 私が一人一人手当をするはめになった。 「ありがとう、ちゃん」 弓親さんが笑う。 すると一角さんが背後から私を抱きしめて、皆に聞こえるように言った。 「俺以外の奴の手当なんかする事ねーよ」 そしてなんと、皆に見えるように、見せつけるように……その場で私の唇を奪ったのだ。 「「「!!?」」」 皆目を向いて驚いているし、一角さんはなかなか私の頭を離してくれなくて。 「い、一角さん!!」 漸く解放された私がそう叫ぶのも、酸欠状態だった為に涙ぐむのも、 さっきの一角さんよりも顔が真っ赤になってる事も……仕方ない事だと思う。 でも、私にだけ見えている一角さんの顔も、負けずに真っ赤なのが分かったから……。 今回だけは、許してあげようかな。 特別、ね。 |
な、長い……; 途中で飽きてしまった皆様、申し訳ないです! そして、初めての一角夢。 こんなの一角じゃない!の声が沸き起こっているような気がします;; わー。ごめんなさい>< それでも最後までお付き合い下さった方がいたら、心から御礼を! ありがとうございました!! この作品は碧露草様の夢小説投稿作品です。 碧露草様、ご投稿有難う御座いました。 photo/Sky Ruins |