きみと出会ったことで僕の一体なにが変わったというのだろう。 僕の朝はいつもと変わらず降り注ぐし(もちろん夜も)、きみの存在で僕の信念だとか意思だとか、 そういったものが崩れてしまうほど僕は意志薄弱ではないはずだ。 まるで海の中ひとりで泳ぐような不安は、今も残る。 僕の日々は何ら不変のまま過ぎてゆく、黄昏時や朝焼けは美しいと思うし、 夜になれば眠くなるし、食事の時間になれば腹が減って、何かを食せば腹は膨らみ、 楽しいときは楽しいと感じるし、悲しいときは切なくなるだろう。 だったらどうしてあんなにものことを想ってしまって、融通が利かなくなって、 どうしようもなくなってしまうのだろう。 それはひどく美しい原理で、もっと率直に言えば、やはり僕は人間のひとりだったということだ。 あんなにも自ら、最強で意思が強く、大きい存在であるように思えた、六道骸、 という自我はやはり紛れもなく人間だった。砂糖水のような想いをきみに抱く、 ただの弱くて(意志薄弱で)、そんなただの人間なのだ。そんなことばかり僕の頭は 考えてしまってどうしようもない。 不意に、部屋の扉が開く、僕はどうも考え始めると止まらなくなってどうしても 悪循環に陥ってしまうから、こんな風に他人に土足で僕の部屋に(そして心に) 踏み入ってもらうのもいいのかもしれない。 扉が開くと、それは今確かに考えていた愛を囁く相手であるで、軽く怯みそうになった。 「骸さん?わたし、犬ちゃんに頼まれて紅茶持ってきたんだけどいる?」 「ああ、どうもありがとうございます。せっかくなので頂きます。」 「わたし、今日ここで寝てもいい?さっき怖いDVD千種に借りて、 犬ちゃんと見てたら本当に怖くなってきて、絶対眠れない。」 「いいですよ、そうやってすぐ怖くなるんだから見ない方がいいって言ってるでしょう。」 「骸さんにも怖いもの見たさってあるでしょ?」 他愛もない、そんな会話を幾度か繰り返して彼女は部屋を去っていく。 いつだって僕の頭の中はのことばかりが輪廻して他のことを入れる余地がない。 今だって彼女が今夜僕の部屋で寝る、ということだけが頭に残り、わざわざ運んで くれた紅茶は手もつかず、何が原因で彼女が怖くなってしまったのかさえ忘却している。 出会って半年に満たない僕等は、それでも序章を超えていると思っていた。 僕らはまだ純粋な関係のままで、僕はがあまりに大切で手を出すことなんて とても儘ならない、ほら、僕はどうしてもきみがからむと単に人間に甘い人間に なってしまうようで、本当は怖いんだ。ひとになることが、どうしても耐え難い (物質的にはもちろんひとで、そうではなく、精神が緩和されてしまう)。 残酷で暴力的で残虐な僕が、脱獄も人殺しも拷問もなにひとつ怯まずにやってきた 僕をひとに戻したのは、ひとりの少女だった。変え難い事実に一番頭を抱えるのは僕だ。 嫉妬、憂鬱、哀愁、恋心、そんな人間の事柄はなくても何ら困らない、そう想っていたからだ。 ◇◆◇ 「貴方が、六道骸?」 少し前、僕たちのアジトである[黒曜ヘルシーランド]に足を踏み入れた少女がだった。 話によると、黒曜第一中学校での僕のことを調べ上げて、僕たちの アジトを壊しにきた、ある国のマフィアだという。脱獄犯である僕らを捕まえに 来た警察かと思ったが、その身なりからして大人には見えなかったのでマフィアなのだろう、 と曖昧に思った。(僕の最も敵対視するものだ) 僕は最初、この勇気ある少女の無駄な足掻きを嘲笑ったが、彼女のひたむきな眼差しに 一瞬身震いして、彼女に近づいた。 「もしかして、お仲間が近くにいるんですか?」 「ひとりで来たって言ったじゃな、」 言葉を遮り三叉槍が彼女の頬を掠めた。彼女と契約しようと思ったのは、あまり に勇気ある行動に感服したのと、そのひたむきで直線的な、(なのに挑発的な)眼差しに吃驚したからだ。 瞬く間に彼女は青くなり、混乱し始めた。 「え、今のって…契約したの?」 「よくご存知で」 「わたしの躯と精神を使って、どうするつもり。」 「どうもしませんよ?ただ少し脅迫するだけです。」 「最低、」 「僕から見たらマフィアの方がずっと最悪です」 そんな風景で始まった僕らの序章はずっとずっと最低路線を歩んでいた。 そのときそのときで信頼を深め、彼女はマフィアを止め、僕はをひとりの女と して見るようになって、今に至る。欧州の綺麗な禁断の恋愛よりもずっとリアルで 禁断な僕らの恋愛は、今佳境を迎えようとしている。 それを今、僕の手で絶つ。 繋がりを、日々を、紡いだ言葉を、囁いた愛を、極めて美しい思い出を、出会った時間を、 幸福なきもちを(きみとのすべてを)。 そのすべてを絶ったとき、僕はきっと自我を取り戻して、嫌悪すべき人間から、 神仏に値する物体へとなりかわる。 ◇◆◇ 「、ちょっと僕の部屋に来てください、」 彼女はうなずく、すべてを知らないの泣き叫ぶ姿を見たくはないし、 見ようとも思わない、でもそれは情けにしかならないことはわかっている。 簡潔に、率直に、言うしかない。 「僕はもうきみといることに疲れまして、もう終わりにしましょう、」 「そんな回りくどいこと言わないで、といたら僕が弱くなる、って言ったらいいじゃない。」 「何のことですか?早々立ち去ってくれますか?」 「うん、骸さんがそういうなら立ち去るよ。いつかくると思ってたし。」 はそういうと、直ぐに僕の前から消えた。泣きも憂いも叫びもしなかったし、 ずいぶん潔くて僕に軽く依存していたひとりの女には思えなかった。考えてみれば、 言い回しからして彼女は近いうちに、知っていたのかもしれなかった。 僕が、ひとりの男に成り下がっていたことを。 (彼女が成り下がったと思っていたかは知らないが) がいなくなって、僕は神仏に値しえる人物になったかと思えたが、 そんなのは思い過ごしで僕はただのちっぽけな破壊しかできない、精神の最弱な男にふたたび成り下がった。 あんなにも自身の満ち溢れた僕からは、遥か遠く。 これならきみがいた方が幾分も幾分もましだった、と思った後にはもう遅くなった、 僕の残骸がいた。 衰弱していく プレリュード (それでも、海を泳ぐような不安は、水の中に溶けていった) |
初めてなのにこんなにも暗いシリアスでしかも長くてすみません!なんかこんな に長いの自分で書いたのに、あんま備考とか分かりません、すみません無知で…! それでは失礼します。 この作品は水嶋*唯様の夢小説投稿作品です。 水嶋*唯様、ご投稿有難う御座いました。 |