きっと彼女は、 星になってボクの生き様を見ている きっと空に浮かぶ星たちは、 大切な人を見守っているんだろう。 彼女は、ボクのこと見守ってくれてるんかな? 今からおよそ25年前。 ボクは大切な人を失った。 名前は。忘れてしまいたい、 こんなに哀しくなるなら。 なのに、忘れることはできへん。 いつだって覚えとる、その姿も、その声も・・・。 彼女は病弱やった。そや、 初めて会ったのも病院やった。 ずいぶん前やなあ、50年は前だっけな。 あの日、ボクは―― ボクは、高熱の乱菊を抱えて、病院へ行った。 人が多くて、診察にまで時間がかかった。 ああ、いつの間にか乱菊も寝とって、 ボクは一人でぼぅっとしとった。 「すいませーん。ボールとってくださーい」 数メートル離れたとこから、彼女は、弾んだ声でボクに声をかけた。 ボクの足元には、ボールが転がっとった。 「ああ、これやな。ほい」 ボクは彼女に向かって、軽くボールを投げた。 誰でもとれるやろ、って風にな。でも、 彼女はボールを取ろうと手を伸ばし、 そのままバランスを崩してしもうた。 「ご免! まさかそないなことになるなんて・・・」 ボクは急いで彼女の元へ駆け寄って、驚いた。 彼女の足は、簡単に折れてしまいそうなほど、 とても細かったんや。 「・・・かんにんな」 ボクがそうつぶやくと、 「ううん、いいのっ、大丈夫! それより、ボールとってくれて、ありがと」 と言い、にへらっとだらしなく笑(わろ)うた。 くりっと大きい目の、可愛らしい顔立ちの子やった。 ボクは、その時から彼女のことが好きやったのかもしれへん。 「あなた、患者さん?」 「いや、ボクやのうて、向こうの女の子や」 「ふぅん」 「キミは、入院しとるん?」 「うん。生まれた時からずぅっとよ」 「・・・ずっと?」 「うん。ずぅっと、ずぅぅっとよ」 彼女は、寂しそうに、笑(わろ)うた。 「ねえ、あなた、何て名前?」 「ボク? ボクは、市丸ギン言うんや。向こうの女の子は、乱菊って言うん」 「私はね、って言うんだよっ」 ――これが、ボクと、の出会い。 ああ、あかん。ボク、また泣きとうなってきたわ。 なんでかなあ・・・。 今から40年前、初冬。 ボクは三番隊に入隊した。最初は、十席からで。 主に書類運びばっかだったなあ。 ボクが入隊してから、とは会ってなかった。 否、会えなかった。忙しかったからなァ…。 その年、ボクが隊舎に書類を運んでいる時。 「ギンッ!」 と、ボクを呼ぶ声がした。振り向くと ――にへらっとだらしなく笑うた、がおった。 「! どないしたん? こんなところ・・・キミが入ってきちゃアカンのに・・・」 「ううん、ギン、あのね、あたし、ゴテイに入るんだよ。確か・・・三番隊」 「護廷・・・三番隊・・・」 「ギンは? ギンは何でここにいるの? ギンもゴテイなの?」 身長差のせいで、自然とが上目遣いになる。 ・・・不覚にも、可愛いと思ってしもた。 「あぁ。と同じ、三番隊や」 「本当? 席官?」 「ああ。ボクは十席や」 「すごい、私なんて席官にもなれなかったよ。ギン、すごい」 「これから強くなればええよ。な?」 「うんっ」 とびっきりの笑顔で、答えた。 その笑顔が、まだ、脳裏にしっかり焼きついて、 離れないんや。 楽しかった、その日からの護廷は。 ボクは休憩のたびに、に会いに行った。 疲れてへんかなぁ、倒れてへんかなぁ、 ただそれだけが心配やった。 必死でを守るボクは、 すごいのことを愛しているんやな、と思った。 でも、恐れていたことは、早足でやってきた。 四番隊の隊員からが倒れたと聞いた。 聞いたとたん、ボクは急いで四番隊隊舎に向かった。 はボクが着いたときには、点滴をされて眠っておった。 「かなり衰弱した状態です。 これでは・・・生きて後、数ヶ月でしょう」 卯ノ花隊長はんの言葉は、全部、信じられなかった。 信じとうなかった。 「は・・・死なんわ。ボクが死なさせんわ。 なんとしてでも、は生きるんや」 「・・・そうですか」 ではお大事に、と卯ノ花隊長はんが言い残していった。 25年前の、秋と冬の間のことやった。 ――今日はキミの25回目の命日や。 また、ちゃんとお参りに来たで。 でもな、これで最後のお参りになるかもしれへん。 今、ボク悪いことしてん。 きっと、戸魂界には居られんくなると思う。 「・・・・・・ギ、ン」 「? ボク、起こしてしもうた?」 「ううん、自分で、起きた・・・の」 「黙っとき。まだ具合悪いんやから。無理して喋っちゃあかんて」 「うん・・・でも、私・・・・・・ たぶん、もう生きられないから」 「何言うとんの! は生きるんよ。生きるんや!」 ううん、とは首を横に振る。 「わかってるんだ、私。この病気が治らないことも。 そして―― この病気で、死ぬことも」 「・・・・・・」 「ギン、今まで迷惑かけてごめんね。ギンと一緒で、私・・・・・・ すっごく嬉しかったよ。ありがとう」 最後のほうは、も涙声になって、 ボクから顔を背けた。 きっと泣いていたんだと思う。 「っ・・・・・・!」 泣きたかった。でも、泣いたら彼女の死を、 彼女が生きられないのを、 認めてしまうことのようで・・・泣かなかった。 「死んだら私は、きっと星になって、ずっとギンのこと見てるから、ね?」 「星に・・・」 「うん、絶対なるよ。 ・・・ねぇ、眠ってもいいかな?」 「・・・・・・ああ、しっかり休むんよ。ほな、お休み」 じゃあ、と言ってボクは四番隊隊舎を出た。 数日後、卯ノ花隊長はんから連絡があった。 が、死んだ、と――。 たった今、だったそうや。 「っ!」 の病室のドアを勢いよく開け、すぐにベッドへ近づいた。 「市丸十席」 卯ノ花隊長はんが、声をかけてきた。 「すみません。・・・・・・ご臨終です」 「・・・・・・・・・・・・」 「・・・・・・・・・・・・」 嫌な空気やった。沈黙が、とても重かった。 「さんから、伝言を預かっております」 「伝言?」 「はい。『ギンらしく生きて』と――」 「なあ、卯ノ花隊長はん」 「なんでしょうか」 「二人っきりにさせてくれへん? 二人っきりに」 「・・・・・・はい」 卯ノ花隊長はんが出て行き、 僕は二人っきりになれた。 は、白布を被って眠っていた。 「・・・・・・」 握った手には、まだぬくもりがあった。 さっきまで生きてたんやな、と実感した。 「ご免な」 白布を取ってみると、やっぱりがおった。 でも、いつもと少し違った。 にへらっとだらしなく笑うた顔やない、初めて見る、 少し微笑んだ、笑顔。 柔らかぁく、口角を少しあげただけなのに。 何故か、は とっても幸せそうやった。 「・・・ 星に、なってや・・・・・・」 ボクはその日、初めて泣いた。ずっとずっと、ずっと。 どうしても止められなかったんや。 ――あれから25年経ったで。 でもな、ボクは、 一度ものことを 忘れた日は無かったで。 の、手。 の、声。 くりっとしたその瞳。 初めて会うた病院のこと。 キミが護廷に入った日。 隊舎でキミが笑っていたこと。 キミが倒れたあの日のこと。 そして――キミの最期のこと。 キミの伝言のこと。 手のぬくもり。 にへらっとだらしなく笑う君。 幸せそうやった、最後の微笑み。 全部、全部・・・。 、ちゃんと星になれたか? 見守っててや、ボクのこと。 は、絶対ボクのこと見守っててくれてるって、 信じてるからな。 あとがき これ、自身めっちゃ好きな作品のようです。長いから、読む人に取っちゃ、 目ぇ疲れると思うけど(笑) 読んでくださり、ありがとうございました。 この作品は蒼空の雫様の夢小説投稿作品です。 蒼空の雫様、ご投稿有難う御座いました。 photo/Sky Ruins |