はじめのいっぽ 5話 ― 5 星のない夜 ― ここまで来て、私はずるずると弱いまま。 こんな私だから、幼い頃から乱菊に憧れて、ずっと支えられて生きて来た。 何も、何一つ乱菊に返せていない。 こんな私を、恋次は慕ってくれた。 いつも気を利かせてくれて、いつも心配してくれて、隊も違うのにいつも顔を出してくれた。 恋次にだって、何も返せてない。 こんな私なのに、隊も違うのに、日番谷隊長は沢山面倒を見てくれた。 落ち込んでるといつの間にか傍に居てくれて、何も言わずに頭を撫でてくれた。 日番谷隊長にも、まだちゃんとお礼すら言えてない。 真っ暗で星も見えない空に、刀を交える音が響く。 大切な人達が切り合っていると言うのに、私は震える体を少しも動かすことが出来ない。 どこまでも臆病で、どこまでも情けない私。 ギンについていくことも、拒絶することも出来ない……愚かな私。 ギンがいない日常を受け入れることは出来ても、ギンを『敵』として認識して 拒絶することが、出来ない。 だからといって仲間を捨てて付いて行くことも、この現実を直視することすら出来ない。 私はただひたすら俯いて、歯を食いしばって、涙を流しているしかなかった。 勝負がつくのを待っているの? 狡い、狡すぎるよ。そんなの。 そう思った時だった。 「!!」 日番谷隊長の声がして、ビクッと肩が震える。 「怖がってんじゃねーよ!足を踏ん張れ!逃げるな!背中を伸ばせ!」 そうだ……。 私、今ただ逃げてるだけだ。 「目を開けろ!前を向け!顔を上げろ!!」 日番谷隊長の、日番谷隊長らしい優しい喝だった。 優しくて温かい言葉に、顔を上げる。……と、 「うるさくて敵わんわ〜。お遊びはここまでや。ほな、さいなら」 ギンの斬縛刀が、日番谷隊長を射程圏内に入れた。斬縛刀を解放して攻撃する気だ。 「やめて!やめて、ギン!!」 無意識に、と言ってもいいほどに体が反応していた。 「もう、やめて」 私は自分の斬縛刀でギンの刀を受け止め、しっかりとその目を見返している。 「……」 ギンの寂しげな声が聞こえたけど。 もう、迷わない。私はもう、迷わない。 「これ以上私の仲間に刃を向けるなら、私もあなたと戦うよ、ギン」 斬縛刀を握り直し、背中に手負いの日番谷隊長を庇って……呟いた。 「卍、解……!」 私の斬縛刀が解放される。 と、同時にギンが飛び退いた。 「そうか……ショックやわー、。もう、ボクがおらんくても平気なんや?」 そう言ったギンの、本当に悲しそうな顔を……私はこの先もきっと忘れることは出来ないと思う。 「残念や。けどボクはとは戦いたないから。行くわ」 「待って!」 ギンは背中を向けたけど、私が呼び止める声に体半分だけ振り返った。 振り返ったけど、もう私の目は見てはくれなかった。 「待たんよ、。ゲームオー……」 「ゲームオーバーだなんて言わせない!!ギンは、ギンのことは私が必ず ……目を覚まさせるから!」 悲しげに笑うギンを、元に戻したい。 例え裁かれるべき罪を背負っていても、私が愛した幼なじみだから。 「それが無理なら、必ず私が……この手でギンを!」 空の中に消えていくギンは、小さく笑って呟いた。 「そんなこと、には出来ひんよ。ボクも、にだけは刀は向けられへん」 そんな言葉を残して、ギンは消えていった。 真っ黒な空に吸い込まれるように、悲しげな背中を私たちに向けて。 私はもう、迷わない。その背中を見ながら心に決めた。 あとがき ようやく、ヒロインは本当に心を決めました。 歩いて行く道を、見定める事が出来ました♪ 日番谷の台詞をずっと考えていました。ヒロインの心を揺さぶるような台詞。 「目を開けろ!……」の台詞です。私的には結構気に入っています。どうでしょうか? さて、次の話で完結です。エピローグ。 最後までお付き合いいただけると幸いです! この作品は「碧露草」様の夢小説投稿作品です。 「碧露草」様、ご投稿有難う御座いました。 photo/空色地図 -sorairo no chizu- |