久々に足を運んだ戌吊の地で。 「――――死神様が何の用だ」 俺を待っていたのは、鋭い刀の感触と、 その百倍鋭い、刺すような瞳だった。 「佐上、我が憎しみをこの刀に込め――貴様を、斬る」 赤紫に焼けた 太陽だけが ソイツ――と俺を眺めていた 「私は…死神を許すわけにはいかない」 今の空と同じ、赤と紫をコントラストさせた着物と 紫の、意志の強そうな瞳が、俺を睨みつけていた。 「いや、お前、ちょっと落ち着けよ」 「許さない……貴様らを許しては、いけない」 は、剣道の足運びで、するりと するりと―― 俺の首にまで、迫っていた。 「な……!」 「……生憎、私は真剣などという、死神と同じようなものは 持たない主義なのでな。助かったな、私の手に握られているのが木刀で」 「テメェ……なんで死神を憎む!?」 「なんで? 貴様には、そんなことも解らぬのか。 まあ、解らないのが普通と考えるか。それよりも、邪魔だ、貴様は。 ここで命を頂いていくとするか」 この女、イカれてやがる……! 治安の悪さのせいで、まともな考えなんか忘れてやがんだ。 「…さて、喉を一気に突き刺せば、幾ら真剣でなくても 貴様如きを殺すことなど容易いだろう。残念だったな、死神。 私に勝てるはずなど、ない。ただ刀を振り回している貴様などに」 「チィッ…!」 俺は、首元にあてられた刀をよける。 「逃がすものか」 は、面を取りに来た。 鋭い音が、辺りに響く。 「テメェ、なんでそんなに死神を憎むんだよ!」 ガードした右腕から、溢れる、血。 クソッ…たかが木刀で、なんでこんな傷……。 何より、なんでこいつは、俺にこんなにも憎しみを向けてくる? 「……死神様は普段、どんな生活をしておられるのだ?」 「……え?」 「死神様の住むところは、とても住みよいところなのだろう? 血と汗にまみれて、必死に永らえることなど、しなくていいのだろう?」 「…………」 「身を寄せ合った“家族”は、まだ働けぬ子供達。 私は彼らの分も養わなくてはならない。そう、一人で永らえることよりも もっともっと、難しいのだ」 「…………」 「貴様らは、ここの生活の苦しさを知らぬ。だからなのだろう? 私たちの生活を改善しない、否、できないのは」 「…………」 「だから、私は貴様らを憎む」 貴様らには解るはずなどない この苦しみから逃れる術を この枷を取り外す術を 貴様らにはには 到底 理解できぬだろう は俺から離れ、間合いを取り、構える。 「……ひとつだけ、間違っているな」 言いながら、俺は立ち上がる。 「……なんだと?」 「俺は流魂街の住人だった」 「……なんだと?」 「丁度この地で育ったさ。仲間っつーか、家族は殆ど死んで、 こんな生活から逃れるために、死神になった」 「…………」 「笑えるだろ? 今は護廷の副隊長だが……その中身は、 ただの野良犬さ」 「野良犬……」 「テメェの言うことも、よくわかる。だがな、テメェもそうやって ギャーギャー騒いでいるだけじゃねぇか。逃れる方法なら、あるんだぜ」 「……ほう。貴様の言う方法とは、どういうものだ?」 「死神になる」 「……ふざけたことを言うな。私には家族が居る。まだ幼い子供達を 放っておくことなどできぬ」 「……って言ったな、お前」 「それがなんだ?」 「甘さを捨てねぇと、生きてはいけねぇんだよ」 「……家族を捨てられないのが、私の甘さだと言うのか?」 「ああ。剣術は上々の出来、頭も悪くねぇと見えるし、 霊力も結構ある。死神の条件を揃えていて、死神にならなくて何になる?」 「何故私が、死神様にならなければならないのだ」 「素質があるからに決まってんじゃねーか」 「解せぬ。もういい、やはり死神様というのは 傲慢で無知な、人としての恥さらしだ」 は、そう言うと、俺に背を向けて去っていこうとする。 「阿散井恋次!」 「……何を急に名乗っているのだ?」 「俺の名前だ、覚えておけ。テメェが護廷に入らなくても、いいや。 ちょくちょく菓子でも持って来てやんよ」 「要らぬ世話だ」 「そう言うなって」 するとは、口元をふっと緩ませて、 「それでは、一番高級な飯でも持って来い。できるだけ多く、な。 子供達が腹をすかせているんだ」 と、言った。 駆ける、戌吊の街を。 この前会ったあの場所での約束を果たすために。 待ってろよ。絶対ぇ護廷に入りたくなるような絶品を、 持って来たからよ。 弾む息と、手提げの土産 すみません。最初に一言、すみません。 こんな設定を考えた私がバカなのですが、難しくてごちゃごちゃしちゃって、 よくわかんなくなっちゃいました…。 こんな作品を読んでくださり、ありがとうございました。 この作品は蒼空の雫様の夢小説投稿作品です。 蒼空の雫様、ご投稿有難う御座いました。 |