ただ、キミに会いたい 雨が、冷たかった。 ただ、それだけのこと。 何故か、あの日のことを思い出したんだ。 あの日も、こんな風に冷たい雨が降っていた。 濡れた髪の毛も、制服も、僕に向かって傘を差し出す風紀委員の奴らも何もかも、僕は鬱陶しかった。 何故だか分からないけど、あの日の僕は妙に苛ついていた。 そう、まるで。今の僕と同じように。 「君、誰?」 あの時、僕の短い問いかけに、君は一瞬視線をくれただけで何も答えなかった。 ただ、中庭のベンチに座って落ちて来る雨粒を見ていたんだ。 「ねぇ、僕が誰だか知ってる?」 今度は視線すらよこさずに、君は僕を無視したんだ。 驚いたよ。まさかこの学校に僕を無視できる奴がいるだなんてさ。 そんな君に僕は興味を持った。だから、君の隣に腰掛けてみたんだ。 風紀委員の奴らも傘も、全部置いて来たから。僕の体だってとうに濡れていたし、 僕よりもびしょ濡れの君がいたから。寒いってことも濡れてるってことも、 もう気にはならなかったんだと思う。 「名前は?」 今考えたら謎だらけだけど、僕は未だ一言も発しない君にまた問いかけた。 僕らしくないよね。 「……」 こちらを見ようともせずに、君はそう答えたね。 「ふーん。、ね。僕は雲雀」 相づちや反応なんて、もう期待していなかった。むしろ、何故かその無反応さが心地よかった。 ずっと空を見ているの横顔は、降り注ぐ雨で濡れていた。 でも、それだけじゃない気がした。 「もしかして、泣いてるの?」 その瞳から、絶えず溢れて零れているもの。それは紛れもなく、涙だった。 「ワァオ!君、もしかして青春とかしてるつもり?馬鹿だね、面白いよ」 僕のそんな言葉にも、は無反応だった。 まるで僕なんかいないみたいに、この世界には自分しかいないみたいに。 「風邪、ひくんじゃない?」 もちろん、僕もだけどね。なんてったって、その日の雨は本当に冷たかったから。 雨なのに、雪のように冷たかったから。 僕たちは、ただずっとベンチに座って雨が落ちて来る様を見ていた。 僕ももう、口を開くのは諦めて、ただ空を見ていた。と同じように。 何故、僕はそこに座っていたんだろう。 見た事もない関係のない女なんか、放っておけば良かったのに。 でも何故か、それは出来なかった。 の隣が、居心地が良かった。 「ありがとう」 不意に、の口から零れた言葉。 「何言ってるの?」 僕にはその意味が分からなくて、ただそう言って馬鹿にするみたいに笑った。 は、その意味を説明することもなく。 ベンチの影から傘を取り出して開き、僕の手に握らせた。 「何?今更傘なんかさしても意味ないと思うんだけど」 僕の言葉に、はただ柔らかく笑った。 その瞳に、もう涙はなかった気がする。 そうしては、僕に背中を向けて去っていった。 どこに帰ったのか、どこの学年でどこのクラスなのか、何も分からなかった。 は、僕の名前を一度も口にすることもなく、いなくなった。 あの日から、一度も学校でを見かけることはなかった。 だから僕も、少しずつのことを忘れていったんだ。 だけど。 今日が、あまりにもあの日によく似ているから。 降っている雨の冷たさも、濡れている僕の髪の毛も制服も、僕の苛立ちさえ。 「……」 分からないけど、何故か僕の口からは彼女の名前が零れていた。 そしたら、何だか急に胸の辺りが騒がしくなって……僕は走り出していた。 この僕が走るなんてこと、本当、滅多にないって言うのに。 向かう先は、中庭。 あの日、と出会った場所。 意味が分からない。 本当に、全然分からないよ。 だけど、もう一度に会いたかった。 もう一度、の隣で雨を見上げてみたいと思った。あの声で、僕の名前を呼んで欲しいと思った。 何故か? さぁ。単なる気紛れかもね。 辿り着いた中庭。 あの日と同じ中庭。あの日と同じ…… 「」 呼んだ声に、君はゆっくりと顔をこちらに向けた。 「雲雀……」 君が僕の名前を、呼んだ。 君があの日と同じように、座っていた。 「そんなに息切らして、どうしたの?」 あの日と同じ声で、僕に問いかける。 まるで、あの日の続きみたいに。あの日がまだ続いていたみたいに。 そんな風に、不思議な錯覚を起こしたからだと思う。だからだと思うけど、 僕は言う筈じゃなかった言葉を口にしてしまった。 「さぁ。ただ、キミに会いたかった」 僕のそんなくだらない言葉に、は柔らかく笑った。 「奇遇だね。私も雲雀に、会いたかった」 の、その言葉が。 体の真ん中あたりにガツンと響いたんだ。これって、何かな? 僕はあの日と同じように、の隣に座る。そして、空を見上げる。 不思議と気持ちが落ち着いた。 「ねぇ。あの日の続きを話そうよ。何だか、そんな気分なんだ」 らしくない僕の発言だけど、どうせは僕のことなんて知らないんだし。 そう思ったら何も飾る必要はないような気がした。 「そうだね。今度は私も、雲雀のことが知りたいから」 ほら、また。 が声を発するたびに、僕の体の中を誰かが引っ掻き回してるみたいだ。 心臓のあたりを、誰かが殴ってるみたい。 そーゆうの、なんかムカつくけど。 まぁ、それも今は悪くないかな。 「僕も、のことが知りたい。話してよ、のこと、全部」 初めての雲雀夢ですv こんなの雲雀じゃない!って言葉は、飲み込んで下さい;(土下座 雲雀ぃ?なんて思いました、私も。すみません; 何となく思いついたネタなんですが、勉強不足!! 精進いたします。 読んで下さった方、ありがとうございました! この作品は「碧露草」様の夢小説投稿作品です。 「碧露草」様、ご投稿有難う御座いました。 photo/NOION |