はじめのいっぽ 2話 ― 2 彼のいない日常 ― 今日も、靜霊邸に日が昇る。 「ギン……」 私は今日もまた、自分の涙で目を覚ます。 「ギン……」 こうしてまた一日、ギンのいない時間が増えていく。 小さな窓から差し込む光だけが、この部屋を照らす明かりだった。 もう何日も、自ら明かりをつけることも外に出ることもしていないから。 遠くから、皆が働き出した声が聞こえる。 あの日、ギン達は日番谷隊長と雛森に深手を負わせた。 他にも、死神同士で刀を向け合って、沢山の血が流れた。旅禍との戦いで敗れたものもまた呵り。 靜霊邸には、まだ安穏とした日常は戻らない。 怪我をしたものの手当や建物の復旧等で、皆慌ただしい日々を送っているようだった。 『』 ギンが私を呼んでいる声が聞こえたような気がして、体を起こした。 すると、もう条件反射のように冷たい涙が頬を濡らした。 「何してるんだろう、私……」 いつまでも立ち上がることが出来ない自分の愚かさを、嘆く。 だけど、どうしてもこの真っ暗な心の枷からは逃れられずに居た。 「本当よ。何してんのよ、あんた」 突然振って来た声は、いつの間にか部屋の中に居た乱菊のものだった。 「乱菊……」 乱菊の手には、温かいお茶の乗ったお盆が。 「全く、は昔っから本当に手がかかって仕方ないわ」 手渡されたお茶の湯気が、顔に漂って温かい。 「本当は酒にしようと思ってたんだけど、隊長に止められたのよ。仕方ないから お茶にしてあげたわよ。感謝しなさい!」 乱菊はそう言いながら、布団の脇に座ってくつろいでいた。 私はそんな乱菊に、微かな笑みを返すことしか出来ない。 「あ!乱菊さん、来てたんスか」 扉が勢いよく開いたかと思うと、そこには恋次の姿が。 「何よ?来てちゃ悪いわけ?私の可愛いの私室に、何で毎日あんたが来んのよ」 「いや、あの……朝飯を。さん、握り飯っスけど少しは食べて下さい」 乱菊の隣に座って、私の横におにぎりを置く恋次。 小さく頷いて、微かな笑みを返すことしか出来ない私は……酷い奴だと思う。 「そろそろ時間だわ。隊長にどやされちゃうし、私行くわ。じゃね、!」 「あ、俺も行きます。さん、少しでいいんで食って下さいね」 2人の後ろ姿を、見送る。 扉が閉まる前に少しだけ見えた乱菊の顔は……悲しげに歪んでいた。 「ごめん……ごめんね」 閉まってしまった扉への、懺悔。 窓辺では、日番谷隊長が昨夜持って来てくれた百合の花が揺れていた。 あの日から、毎日。 朝には乱菊と恋次が。夜には日番谷隊長が来てくれていた。 「ごめんなさい……」 心配をかけていることも、皆が心を痛めていることも分かってる。 彼らが時折見せる苦しげな、悲しげな顔。私のせいだって分かってる。 でも、私はどうしても立ち上がれない。 皆のように、強くはいられない。 「ギン……」 私は、ギン無しで生きていくことなんかできないんだよ。 「ギン……」 あなたがどこにいるのかなんて分からない。追いかけることも、出来ない。 「ギン……私、」 もう、苦しいよ。 もう、分からない。 もう、疲れちゃったよ…… 第二話です。 かなり暗いです。真っ暗です;でも、次の3話でヒロインちゃんが立ち直るきっ かけが訪れますので、見守ってやって下さい! こういった話なので、恋愛的には(ギンと)ハッピーエンドにはなれない(はず )ですが、ヒロインが本当に前向きに生きられるような最後を目指しておりますv この作品は「碧露草」様の夢小説投稿作品です。 「碧露草」様、ご投稿有難う御座いました。 photo/Sky Ruins |