「オイ! テメェ普段使えねぇんだから 今回を逃したら命はねぇと思えよ!」 あーあ。 僕だって、好きでこんな仕事しているんじゃないのに。 仕事先、空座第一高校。 仕事、ある少女を殺す。 「井上さん」 僕は、そうやって君に声をかけてきた。 「何かな? さん」 「あの、僕、転校したてで教室とかわからないしさ、 越智先生、何もそういうこと言わなかったから、 案内して欲しいんだけど……無理、かな?」 えへっと、彼女――井上さんは笑う。 「いいよぉ」 「あ、ありがと」 にこっ、と笑ってみせる。でも…… 僕は上手く笑えただろうか。 「さん、そんな遠慮がちにならなくていいって!! あたしは井上さんじゃなくて、織姫でいいよ」 井上さんは、太陽みたいに笑う。 ……愛されキャラだな、とは思っていたけど。 ほんと、心の端が温かくなってくる。 「あ、じゃあ、僕のことは『美羽』って呼んで。 苗字でさん付けで呼ばれるの、あんまし好きじゃないんだ」 「うん、わかった! じゃ、改めてよろしく、美羽ちゃん」 「よろしく、織姫」 こんな、他愛のない、やりとりですら彼女……織姫に、悲劇が訪れるなんて、 誰も思っていなかっただろう。 織姫と友達になって、数週間。 僕はみんなの人気者で、僕はみんなに、 初めて愛された。 そして、狂い始めた。 「!! ちゃんと仕事してんのかァ!? 期日はあと一週間だぞ? 大丈夫なのかよ、オイ」 「……煩いなぁ、僕は僕なりに頑張っていますよ」 「だったらいいけどよォ……ボスはテメェを クビにする勢いだぜぇ? 聞いてんのか? オイ、!? ァ!?」 プツッ。ツーツーツーツー。 うざったいったらありゃしない。 アイツの声はすごく、すごく耳障りだ。 こんな僕、織姫には知られたくないな。 だって、織姫―― 君の知る僕は 思いっきりの愛され者で 君の知らない僕は 思いっきり嫌われ者 なんて……知ったら、絶望するよね。 「美羽ちゃん、おっはよー!」 ぽん、と織姫が僕の肩をたたく。 「おはよ、織姫。にしても……なんで後ろからでも僕だってわかるの?」 「あったりまえじゃないですかぁー。 だって、美羽ちゃんみたいに、二つに三つ編みしてる子いないしさ、 キレーな金髪、他にいないもん」 「あー……そっか。そりゃ、金髪なんて、大島だっけ? あの不良しかいないしね」 あはは、と織姫は笑う。 僕も、つられて、笑ってしまった。 アイツの電話から五日が過ぎた日の、昼休み。 「ね、織姫、今日さ――― 夜十一時に、第一高に来てくれない?」 「? いいけど……」 彼女に、迫る、悲劇。 あーあ、僕、こんな仕事したくなかったのにな。 夜、十一時ジャスト。 織姫は、やってきた。 「美羽ちゃーーん!!」 「……来てくれて嬉しいよ、織姫」 「でも、どうしたの? こんな夜中に……」 「織姫、君にしなくちゃいけないことがあるの」 「あたしに?」 僕は、ポケットに手を伸ばす。 そして、銃を取り出し――織姫に向ける。 「ごめん。僕だって、こんなこと、本当は したくないんだけれど…。ごめんね、織姫。 君の命、貰っていくよ」 「…………美羽ちゃん?」 「そうだ、最期に、本当のことを教えてあげる。 僕はいわゆる殺し屋集団の下っ端で、司令官から 君を殺して来いっていわれているの」 「そんな……なんで……」 「知らないよ。でも、上の奴らがそう言ったんだ。 僕は実行に移すしかないんだ」 「美羽、ちゃん……」 ……どうしてだろう。 銃を持つ手が震える。 涙が溢れそうになる。 織姫、君を、殺したくないと思う。 狂ってきてしまう。 当初の目的とは別の筋書きが、出来上がった。 そして、僕は悟った。 「織、姫…… …………嘘! 嘘だよ、こんなの。 この銃だって、オモチャに決まっているじゃん!!」 ははは、っと僕は笑う。 でも、織姫は笑ってくれない。 「なんで……こんな嘘、吐くの……」 「織姫を殺すのが今回の指令。それはホント。 でもね、織姫を、殺したらいけないなって思ったの。 さよなら、織姫。標的を殺せなかったら、殺し屋はクビになるんだ。 そしたら、僕はもう生きていけない。それに、織姫に本性を知られちゃったしね。 それじゃあ…… GOOD BYE、織姫。 僕の、初めての友達の、織姫」 「美羽ちゃ……」 僕を呼ぶ織姫の声は、もう僕には届かない。 空座第一高を後にして、僕は…… 誰もいない河原で、自分の胸に銃口をあてる。 そして、引き金を引けば…… 大きな爆音とともに、静かに、僕は命を絶った。 さようなら、織姫。 僕は君を殺せないまま、 終わることにした アトガキ 何故に織姫夢!? って思った人へ一言。 ただ私が織姫が好きなだけです。(笑) あ、因みに、主人公は自分のことを『僕』って言っていますけど、 れっきとした女の子なので。 長くて暗くて面白くなくてスミマセン……; 読んでくださり、ありがとうございました。 この作品は蒼空の雫様の夢小説投稿作品です。 蒼空の雫様、ご投稿有難う御座いました。 photo/Sky Ruins |