はじめのいっぽ 第一話
― 1 繰り返されるあの日 ―









 私は、走っている。



 頭が真っ白で、顔が真っ青で、目は真っ赤で……

 瞬歩を使えばすぐの距離を、ただひたすら走っている。





『嘘だ。嘘だ!』

頭の中で反芻される言葉。……願い。

 上がる息のせいで、ますます頭は真っ白になっていく。











「ギン!!」

 双極の丘についた時には、ギンは乱菊によって捕えられていた。





「おぉ、。遅かったやない」

いつもと変わらない笑みを浮かべながら、ギンはいつもと変わらない声で、口調で、そう言った。

「ギン……嘘、だよね?」

報われる筈のない微かな期待を込めて、ギンの前に立つ。

 ギンの背後に回っている乱菊が、顔を歪めたのが分かった。

「ギンが反逆者だなんて、嘘だよね?」



 そんなことを言いながらも、目の当たりにした光景が……現実だと言っているのも分かっていた。

 捕えられているギン、東仙隊長、死んだ筈の藍染隊長……。

「私たちを裏切って、どこかへ行ってしまったりはしないよね?ねぇ、ギン!」

 分かっている。

 どこからどう見たって、ギン達は反逆者なんだってこと。

 さっき聞いた話は本当だって言うこと。



 でも、信じたくはなかった。

 信じられなかった。







には、知られたなかったんやけどなぁ」

いつもの笑顔で、いつもの声で、いつもの調子で、ギンが言う。



「堪忍な、

いつもの口調で、いつもの言葉で、いつもの姿で、ギンが言う。

「嘘だよ。嘘だよ!だってギンは……!」

私がそこまで言った時、ギンはその顔から笑顔を消した。

 初めて見たかも知れない、ギンの真剣な顔。

「なら、一緒に行こか?がこの手を取ったら、連れてったってもええよ」

「ギン……?」

 突然の言葉に、周囲がどよめいたのが分かった。

「なぁ、。行くよな?」

 差し出された手を、取ってしまおうかと頭の中の誰かが囁く。

 でも。





!ダメよ!!」

乱菊の声で、ハッと我に返る。

「この三人は、雛森と日番谷隊長を殺そうとしたのよ!反逆者なのよ!?」

ギンの後ろに見える乱菊は、必死の形相で叫ぶように私に言う。

 朝に顔を合わせたばかりの日番谷隊長の顔が、浮かんだ。

さん……、ダメ、です」

血だらけで地面に伏している恋次の声も、聞こえた。絞り出すような、苦しげな声。





「ほら、行くで。

顔を上げれば、笑顔でそう言うギン。



 私は……



  私は……、



   唇を噛み締めて一歩、後ろへ下がったとき。

「離れろ!!」

夜一さんの声と共に、藍染隊長が光の柱に包まれた。それは、反膜。

 続いて現れた大虚が仲間を救う為の光。

「時間切れや、

ギンは少しだけ、眉を寄せて私の頭を撫でた。

「ギン……」

「さいなら、乱菊。ご免な」





 そしてギンも反膜に包まれて……行ってしまった。

「ギン!……っギン!!」











 夢の中の自分の声で、目が覚めた。

 あの日から私は、毎晩繰り返し繰り返しあの日を夢見る。

「ギン……」

何日経っても、この涙が乾くことはなく。床に伏したまま立ち上がることも出来ない。

 私は乱菊のように、立ち直った振りをすることさえ出来ずに居た。





「ギン」

まるで呪文のようにその名前を繰り返す。

「いけばよかった……」

ギンのその手を取れば良かった。でも、やっぱりそれは出来なかっただろう。

頭の中は、その繰り返し。

「ギン……」









 いなくなったあなたを思う。





 昨日も、今日も、明日も……きっと、その次の日も。

















〜〜〜〜〜〜あとがき〜〜〜〜〜〜
第一話です。これから、ヒロインちゃんの葛藤や成長、
友人達の想いなんかを書いていきたいと思います。
恋愛ものと言うよりは、仲間の絆という感じになりそうです。
よろしければ、最後までお付き合い下さい!



この作品は「碧露草」様の夢小説投稿作品です。
「碧露草」様、ご投稿有難う御座いました。

photo/Sky Ruins